A-file.2-1 管理対象
『……なぜこんなことを?』
彼は、ガラス越しに唇を動かした。
『キミなら、わかっていたはず。』
彼は認証機にカードキーを差し込み、開いた扉から私の元に近づく。
私は、その言葉を聞きながらあの日のことを思い出していた。
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ーーーキミも大変だね。
あの日、私はここに連れてこられた。
痛い、痛い、
声もだせない、もう、いっそ殺して、って思った
ーーーキミみたいな子供が、かわいそうに。
彼は、こんな私に優しく言葉をかけてくれた。
こっそりと、世界のことを教えてくれた。
言葉を発することの出来ない私のために、読唇術まで習得して。
この施設のことも、彼のことも、たくさんたくさんおしえてくれた。
私は、「特別」なんだってことも、知った。
外に出てはいけない。私が「流出」したらダメなんだって。
その時、彼は私を「処分」しないといけないんだって。
ーーー俺は、こんなことしたくないけど、ごめんね。
耳の管理タグと、首元のマークから、
彼も「囚われている」ということは容易に推測できた。
”いっしょ、だね?”
私は、唇を動かして彼に伝えた。
彼は。私の全てだったの。
…でも、彼に疑いがかかっているってことを知った。
優しい性格だから、私たちを「処分」することができない…
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『なのに、どうして?』
だから、私は逃げ出した。
『そんなことしたら、俺はお前を殺さなければいけない。』
わかってたよ。
それが何を意味するかなんて、わかってた。
『そう、わかっていただろう?』
わかってたよ。だから、わざと他の人に見つかるように、「逃げた」。
他の人に見つかったら、この事実を隠すことができなことも、
私の「処分」が彼の担当であることも。
見つかった時、たくさん殴られて、蹴られて、痛かった。
血もたくさんでた。
だから、書いてみた。
普段伝えられなかったことを、見える形にしたくって。
こんなことしか、できないけど、あなたのことが、大好きだったの。
私がこうすることで、あなたが疑われずにすむのなら。
私の頭に、彼の拳銃が当たる。
私は、あの日にあなたがつけてくれた拘束具に手をやった。
女の子だからお洒落したいよねって、あなたが内緒でくれたピンやカフは、
私の大切な宝物。
こんなことして、ごめんなさい。
別の形で出会えていたら、どうなっていたんだろう?
こんなわたしでも、生まれ変わること、できるかな。
あなたにみとってもらえるなら、あなたに送ってもらえるなら、
本望なのかなって。
そんな顔をさせてるのは、私なんだね。
ごめんね。
私の分まで、生きて。
私のこと、忘れちゃうのかな。
ちょっと、悲しいな。
どうしよう…やっぱり…こわいや。
そっと、唇を動かす。
「こんなわたしで、ごめんなs
ーーー参考ーーー
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挿入文章:暁りま