F-file.1 恐怖感情
やだ…やだ…
体をふるわせる彼女は瞳に涙を浮かべ、首を左右に振り身を捩り、何とか拘束から逃れようと藻掻く。
その振る舞いに違和感を感じ、1度腕の力を緩め彼女を座らせた。
…怖いの。
彼女は消え入りそうな声で言った。
怖いの。思い出して、怖いの。
そこまで言うと彼女はぼーっとしながらただ涙を流すだけで、まるで人形のようだった。
思い出す、ということは過去になにかがあったのだろう。
告白に対しての戸惑った顔も、
触れることにすら躊躇して頑なに拒絶していたのも、
時おり苦しそうな表情で何かを我慢していたのも、
全て関係しているのだろうか。
聞きたいことなど沢山あったが、
そのようなことよりもこのようになってしまった彼女をどうすれば落ち着かせられるのか、どうすれば安心するのかを考えることが先決だった。
こんな時に抱きしめても逆効果なのか、何もしない方がいいのか、
あれこれ考え、ふと付き合う前に彼女が話していたことを思い出した。
----私ね、大切な人に抱きしめられて、その人の鼓動を聞いて過ごしていたいっていう願望があるの。みんなは気持ち悪い、とか変わってる、とか言うんだけどね。きっと私にはそれを望む権利なんてないけれど…。
横に座る彼女の頭を自分の胸に寄せ、抱きしめる。
彼女は一瞬身体を強ばらせたが、しばらくして何を気にするでもなく大粒の涙を流し始めた。
きっと、たくさんの感情に縛り付けられて、不安もあったのだろう。今はただ、彼女を抱きしめて頭を撫でることしか出来なかった。
20190522 執筆
20191203 再掲・編集