筆の記憶(女性1人台本)
まだ起きていたのかい?
………なに、眠れないのかい…それなら、少し話をしようか。
『昔、絵を描くことが好きな少女がいた。
寝る間も惜しんで筆を動かして、
まるでカンバスが恋人だとでもいうように、方時も離さなかった。
誰に認められるでもなかったが、絵を描く時間が本当に幸せだったんだろうねぇ。
いつも笑っていた。村の人間も、その笑顔に癒されていた。
だが、不運なことに事故にあった。片手は切断、もう片腕は、もう絵を描くことは…
その日からみるみるやつれていった。笑顔を見せるどころか、言葉を発することもなくなった。
食べ物さえも受け付けない。このままでは死んでしまう。村人も考えあぐねてねぇ。
そんな時、1人の青年が少女を尋ねてきた。
「僕に描かせてくれないか」
そんなことをいったんだ。僕が君の腕になる、と。
その日から青年は少女の腕となって、たくさんの作品を描き続けた。
少しずつ。少しずつ周りにも認められるようになってねぇ。
少女だけでなく、村の人も感謝したさ。
また太陽のような笑顔が戻ったんだからね。』
…その後2人はどうなったのか、って?
さぁ…どうだろうねぇ。
あ、そうそう、その少女は常に自分の名前を掘った筆を使っていて、
青年が腕になると申し出た時に渡したんだそうだよ。
おや、誰かに呼ばれたね…はいはい、絵具まみれで孫の部屋に来るんじゃないよ。
筆くらい片付けてきたらどうなんだい。
「あれ、その筆って…」
…気がついたのかい?まあ、さっきの質問の答えは…想像に任せるとしよう。
今日はもう遅い。ゆっくりおやすみな。